2015年2月6日

地方創生セミナーでみた地方自治のあり方

テーマ・内容など

三菱総合研究所が主催する全5回の地方創生シリーズ「自治体分科会」の第4回目が2月6日に開催されたため参加してきました。


前日に埼玉県主催の「政策研究交流大会」に参加したこともあり、『民』である研究所主催の地方創生セミナーと『官』である埼玉県主催の地方創生セミナーの違いなども含めて感じたことをお伝えしたいと思います。


今回のセミナーのテーマは、『「地域産業」(地方に仕事を作り、安心して働けるようにする)』という今まさに旬の内容について宮崎市の中心街のリノベーションを目指すワーキンググループ(以降、WG)から宮崎大学の准教授、実際に宮崎市の中心街に本社を構えるIT企業の執行役員、高松市の中心街にある商店街の振興組合理事長がそれぞれ公演されました。


宮崎市v.s.高松市

主催者が意図してかわかりませんが、結果的に官民連携・ビジョンからのウォーターフォール方式の王道で地域活性化を考える宮崎市と『民』のみで自分たちの住みたい地域をシンプルに捉え、経済原理に則った形で地域活性化を実現した高松市の対比がとても印象的だったためまずは両市の地方創生のケースについて幾つかの側面で比較してみたいと思います。


①官との連携

当初は官との連携も模索した宮崎市WGですが県は特定の市だけ優遇できないという立場から動かず、市は県を気にして動けず、結果として『民』だけで進める形で計画策定を行っていったとのこと。

対して高松市の商店街振興組合は、選挙などのことを考えると様々なステークホルダーの利害関係を調整することは『官』にはできないと考え、当初から『民』のみで計画策定し、着実に進めていったとのこと。


②まちづくりアプローチ

どちらもまちづくりの目標として人が集まる『ステージ作り』を目指している点、市の中心街は、実は税収の稼ぎ頭であることから中心街を再生しなければならないという問題意識は変わらないのですがアプローチがとても対照的です。


宮崎市WGでは、「まちづくりのビジョン制定」、「現状分析」、「対策の立案」、「実行」というチェンジマネジメントでは王道の方法をとっているのに対して、高松市は、シンプルに「街にパラダイスを作る」、「みんな儲かる仕組み」という2点に集中し、まちづくりを行ったとのこと。

宮崎市WGのアプローチはステークホルダーを巻き込む時によく取られる教科書通りの方法ではありますが、ある意味人を変えるアプローチでもあり、情緒的障壁や利害関係でガチガチになっているケースでは周囲を動かすまでにとても時間がかかる場合が多く、宮崎市のケースをお聞きしていてもとても苦慮されている様子がよくわかりました。

具体的には、中心街の活性化には働く場を増やす必要があるということで企業誘致、これからは知的産業ということでIT関連企業の誘致にフォーカスし、取り組んでいくという内容でした。


対して高松市の商店街振興組合の場合は、「みんなが儲かる仕組み」を作るという経済原理と「街にパラダイスを作る」という発想により人を動かし、着実に人が集まる街を作っていきました。

具体的には、既得権を持っている人の権利を「所有権」と「運営権」に分離し、運営を代行することで既得権者に配当を支払うという形式です。つまり、既得権者からすると自分の資産を投資し、お金を儲けることができ、一括運営したい運営者としては運営の主導権を持てる。結果、戦略的に一貫性のあるまちづくりができ、人が集まり、お金が集まり、市も税収も増えることにも繋がっています。 つまり、人が集まりたくなるようなステージをall-winの儲かる仕組みづくりを構築することで実現したのです。


③結果

宮崎市WGのケースはまだ計画段階であるため直接的な比較はできないですが、宮崎市と高松市の人口推移、行財政状況を見てみたのでご紹介します。


高松市宮崎市
人口427,572人404,439人
2009-13年転入超過数1,585人829人
総事業所数24,45719,510
課税対象所得(百万)594,939472,901
納税者数187,753人162,139人
一人あたり課税対象所得(円)3,168,7322,916,639
地方税額(千円)63,614,90949,846,600
*別途記載がない限り上記データは2012年時点のデータです

上記だけを見ると人口、事業所数、一人当たりの課税対象所得、地方税額、どの側面からみても高松市の方が勝っていることがわかり、高松市の商店街振興組合のがんばりも一助になっているのかもしれません。


印象的だったこと

「ビジョン作りに時間をかけても意味がない」

ビジョンを制定し、大きな目標を明確にすることで利害関係者の方向性をまとめていくという方法はチェンジマネジメントでは王道と言われる方法ですが、この方法は官僚的になってしまった組織内の人の思考を改めて一つにまとめるという意味では有効性が高いと思いますが、もしかすると地方創生、地方活性化というような関係者の方々の生活がかかっていることとなると不十分なのかもしれないと感じさせられました。

つまり、地方創生・活性化とはつまり「人」の生活の基盤を変えてもらうことであり、それはほぼ確実に経済的なリスクを伴います。たとえば、商店街主に商店街のイメージを変えたいので商売を変えてくださいといってもそんな恐ろしいことが簡単できるわけがありません。また、中心街の活性がないので中心街に引越ししてくださいといっても仕事はあるのか?子供の学校は?病院は?などなど簡単にはいきません。

そう考えるとシンプルに「自分がどんな街に住みたいか」と考えれば自ずと目指すべきまちづくりの答えが見えて来るという高松市のケースはとても現実的に感じます。


「精度の高い収支計画と周到で戦略的な準備」

地域活性化には住民、地方自治体職員に始まり、商店街振興組合や商店主、地元事業主など多くの人が関わるが、それぞれに利益相反するため総論賛成、各論反対となり、動きが取れなくなる状況になりがちであるが、それを打破したのは関係者全員が得をするall-winの精度の高い収支計画の策定ということでした。


上述の収支計画が仮にあったとしてもその収支を実現する戦略と実行計画、元手が必要ですが、高松市の商店街振興組合のケースでは、それらを周到に準備した様子が伺えます。

まずは「所有権」と「運営権」の分離という戦略を中心とし、既得権者の利害関係でガチガチだった状況を一変させ、自由に絵がかけるキャンパスを得たのです。

さらには当初から商店街周辺の駐車場事業の運営に成功しており、その収益と収支計画に賛同した地権者、地銀、行政機関からの出資を受け、資金を準備。

加えて商店街のテナントの核として三越を誘致。三越としては一定の集客が望める場所に出店でき、商店街としては人を集めるためのフラッグシップ店舗を作れ、ここでもall-winの構造ができています。


「地方活性化・創生における行政機関に対する期待」

今回とても印象的だったことの一つは高松市のケースでほとんど行政機関の役割が見えなかったことです。

今回の両市のケースを伺う中で行政機関との連携を試みるも地域内のバランスや選挙のことを考えると一歩も踏み出せない行政機関の姿が透けて見えてきました。

それは、公共性、公平性をもっとも重視した場合の当然の結果であり、行政機関の弱点であるわけですが、そう考えると地方活性化とは今や地域間の競争となっていることを考えるとそもそも地方活性化を行政機関に期待すること自体が論理的に矛盾していることのように思えてきます。


つまり、地方活性化、創生に関しては行政に期待すべきでない、別な言い方をすれば筋違いなのかもしれません。


最後に

今回は2日連続で地方創生関連のセミナーに参加してきたわけですが、開催目的が微妙に異なるため一概には比較できませんが一方は自治体主催、もう一方は民間企業主催ということもあってか私にとってはとても対照的な内容・雰囲気でした。

一言で言えば官主催のセミナーは切迫感がなく、ふわっとした感じだったのに対して民主催のものは切迫感と必死さをとても感じました。

これは地方創生の現場において行政機関と生活がかかっている市民や民間企業関係者との温度差そのものではないでしょうか。


現在、地方活性化・創生の議論・取り組みがいろいろなところでされていますが、自治体の役割を問うものが多い中で今回のセミナーは直接的ではないですが地方活性化・創生はそこに住む住民自身が行っていくことであり、自分たちがどんな街にしていきたいかと自分たちで実現していくことだということを強く感じさせる内容でした。

具体的には、「働く場は自分で作る」、「自分で勉強する」、「一人でできなければ周囲の人の力を借りる」。周囲の人の力を借りるためにはその人も自分と一緒に幸福になれるように考える、そしてそれを明確な数字を含んだ計画にまとめ公にする。

とはいえ、上記は簡単に言えば起業家になりなさいと言っていることとなんら変わらず、実行することは非常に難しいことであり、巷で言われている「地方創生」とはとても難しいことを言っているということなのだと思います。

いずれにせよ、街を作るのはそこに住む人。

これからの地方創生において優秀な人をいかに惹きつけるかがもっとも重要になっていくのではないでしょうか。

そんなことを感じさせるセミナーでした。


なお、高松市の商店街振興組合の話を詳しく知りたい方は「丸亀商店街」と検索するとすぐに見つかるはずですのでそちらをご覧ください。



2015年2月6日 株式会社 社会価値'見える化'研究所

代表取締役 石橋 宏太